炎炎ノ消防隊 ENN ENN NO SHOUBOUTAI 弐ノ章

SPECIAL

第5弾 末廣健一郎 音楽

TVアニメ『炎炎ノ消防隊』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第5回は作品を彩る音楽を制作している末廣さん。

バトルシーンを盛り上げながら、作品に踏み込んでいく音楽を

──まずは壱ノ章で音楽制作の依頼があったときの心境について伺いたいです。プロデューサーの立石謙介さんから「劇伴は末廣さんでいきたい」という強い要望があり、それが叶った形だと伺いました。
ありがたいですね。『炎炎ノ消防隊』という作品は、物語の背景が壮大で、独創的なストーリーのダークファンタジーです。立石さんには、そんな世界観を盛り上げるための音楽を作ってほしい、とお話をいただきました。僕自身、音楽的に壮大な作風はもともと大好きな分野ですし、原作の内容や世界観も完全にツボだったので、ご指名があったことは本当に嬉しかったです。

──原作を読んだとき、特にどこに惹かれましたか。
もう、とにかく「面白い!」「カッコいい!」に尽きます。物語の冒頭から胸が熱くなって、夢中で読みました。第8特殊消防隊を中心に、徐々に明かされていく人体発火現象の謎や癖の強いキャラクターたち、衣装や建物などの細部に至るまで光るデザインセンス。どこをとっても魅力的なんです。

──原作を読んだ時点で、もう音楽のイメージは湧いているものなのでしょうか?
漠然と、ですね。作品の大きな魅力のひとつであるアクションシーンにフォーカスを当てることは想像していました。ダイナミックなバトルを盛り上げつつ、さらに物語に踏み込んでいけるような曲が作りたいな、と考えていましたね。

重要なのは「音楽」と「シーン」の共鳴度

──末廣さんは、『はたらく細胞』などのアニメや、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』といった数々のヒット作の劇伴を手がけてきましたよね。本作の音楽を作るにあたって、今までの経験が生かされたと感じる瞬間はありましたか。
これはたくさんの素晴らしい作品に関わらせていただいたことで身についた感覚なのですが、音楽とシーンの距離感や共鳴度はとても意識しています。

──音楽とシーンの、距離感や共鳴度、ですか。
たとえば、本作はとてもスケールが大きい物語です。奥行きのある世界観や歴史設定はオーケストラと非常に相性が良く、その一方で、個性豊かなキャラ同士の会話や緊張感のあるシーン、戦闘シーンなどは音色が立つようなDTM(デスクトップミュージック)の打ち込み系の音、もしくはサンプリング系の音と相性がいいように感じます。特殊消防隊が持っている装備のデザインや雰囲気なども、歪んだデジタル系の音が合うように感じますね。

──なるほど。まさに本作の劇伴はオーケストラからファンクなものまで幅広いジャンルの音楽が使われている印象がありましたが、そういった意図があったのですね。実際に劇伴を制作するにあたって、音楽の全体像が見えたのはいつ頃だったのでしょうか。
やはりメインテーマが出来上がってからですね。

──「炎炎ノ消防隊-MainTheme-」ですね。最初に流れるのは、第1話でシンラが初めて特殊消防隊として現場へ行ったときですよね。彼の様々な葛藤や辛い思い出なども交えた、複雑なアクションシーンに見事にマッチしていた印象です。
ありがとうございます。ただ、当初メインテーマのモチーフ(※楽曲を作る上でメロディの最少単位)はなかなか納得のいくものが生まれなくて……かなり難航した記憶があります。まあ、この曲が生まれることによって登場人物の決意、アクション、行動、心情の全てがカバーできたという良い面もあったので苦労した甲斐はあったのかな(笑)。

大久保先生の好きな音楽も参考に

──本作の音楽を作る上で、原作以外に着想を受けたものはありましたか。
原作者である大久保先生ですね。先生は、音楽に対してとても熱量のある方なんですよ。なので、打ち合わせの際に、好きな音楽や作品を描かれているときに聴いている音楽なども教えていただけて、インスピレーションを沸かせる上でも大変参考になりました。

──大久保先生とそんなやりとりがあったんですね。
それを踏まえて、八瀬監督や明田川音響監督、プロデューサーたちと一緒に世界観を盛り上げるためのアイデアを落とし込んでいきました。その後、メインテーマのモチーフが生まれてからは、作業もスムーズでしたね。

──メインテーマ以外の楽曲で、こだわった点はありますか?
本作では、アクションシーンはもちろん、そこにつながる決意のシーンも重要です。そこをオーケストラとデジタルで固めて、その他のシーンは、ハウス、エレクトロ、ブレイクビーツなどのジャンルを中心にまとめています。総じていうなら、オーケストラ+デジタルという感じですね。

シンラの戦闘シーンだけは特別に打ち込んで作成

──本作はキャラクターのセリフも多く、会話の間に寄り添っていくような音楽も多かったと思います。劇伴という立ち位置でどのようにシーン作りを考えましたか。
まず基本的に、劇伴は会話の裏に使用されるのが大前提にあるので、全ての曲でそのような意識はあります。本作は激しいアクションシーンがある一方で、日常シーンはシュールで独特な雰囲気がありますよね。キャラクター同士のセリフのやり取りも多い。こういったシーンはブレイクビーツ、ハウス、エレクトロ系などの要素を盛り込んだ曲にするんです。会話の邪魔をしないような、メロディよりもリズムで遊ぶような曲というとわかりやすいでしょうか。

──たしかに言われてみると日常シーンはあまりメロディを意識しないような音楽になっていますね。バトルシーンとは対照的です。
逆にバトルシーンでいうと、シンラのアクションシーンは彼個人として特別に「デビルビート」という曲を作っているのですが、ここではあえてオーケストラを使わずに打ち込みで作っています。彼の戦闘シーンとも相性がよく、想定以上の役割を果たしてくれたお気に入りの楽曲ですね。

──シンラの戦闘シーンだけいつもと雰囲気が変わるのは、そんな音楽の工夫も影響していたんですね! 他にも、意外と気づかれていない音楽面のこだわりなどがあれば伺いたいです。
色々あるのですが、一番わかりやすい第1話を例に出しますと、マッチボックスの出勤シーン、シンラが初めて消火現場に足を踏み入れたシーン、工場長夫人との戦闘シーン、戦闘が終わった後のエピローグシーン……これらのシーンはすべて先ほどお話ししたメインテーマのモチーフを使用した曲が流れています。よく聴くと随所に同じメロディが聴けると思うので、発見しながら楽しんでもらえると嬉しいですね。

弐ノ章は、戦闘シーンに特化して新たに書き下ろし

──お話を伺って、随所にこだわりのある音楽が物語をさらに壮大に盛り上げていたことがわかりました。実際に壱ノ章が放送されて、ご自身では手応えは感じましたか。
メインテーマが流れた第1話、シンラが決意したあとの戦闘シーンはグッときましたね。激しいアクションシーンのカッコよさと物語の壮大なスケールを、音楽面でもうまくサポートできたように感じました。第23話のショウとシンラのバトルシーンも音楽との調和がよくてお気に入りです。

──きたる弐ノ章では、音楽面でどのような変化があるのでしょうか。
まず、弐ノ章では壱ノ章で用意したメインテーマのモチーフに手を加え、戦闘シーンに特化したメインテーマを新たに書き下ろしました。よりディープに、そして個にフィーチャーしたアプローチで作っています。

──メインテーマからガラリと変わるんですね!
そうですね。音楽的な言葉で表すと、ブロステップやビッグルームなどのダンス系ジャンルに、メタルや劇伴的なオーケストラを取り入れた戦闘曲を中心に据えて、その他の楽曲は壱ノ章の流れを汲みつつ、各シチュエーションに合わせて用意しています。弐ノ章に入り、音楽もさらに進化しているので、ぜひ楽しみにお待ちください!

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