炎炎ノ消防隊 ENN ENN NO SHOUBOUTAI 弐ノ章

SPECIAL

第3弾 土屋 萌 講談社 週刊少年マガジン 編集部

TVアニメ『炎炎ノ消防隊』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第3回は週刊少年マガジン編集部の作品担当編集者・土屋さん。

大久保先生のひと言で、作品のイメージが一気に広がった

──まずは原作が生まれる過程について教えてください。『炎炎ノ消防隊』が現在のようなストーリーやキャラクターに至るまで、大久保先生とはどのようなやり取りがあったのでしょうか。
前作の『ソウルイーター』シリーズを描き終えたくらいの時期に、大久保先生にコンタクトを取り、お会いできることになりました。その時点で、すでに『炎炎ノ消防隊』の世界観や設定の土台は出来上がっていたんです。大久保先生からその構想をお聞かせいただくところから始まっていますから、そこからはトントン拍子といいますか……編集者としては、とても贅沢な話でしたね(笑)。

──人体発火現象など、キーになる要素もすでに固まっていた?
そうですね。消防士が人体発火の謎を解明するために戦う設定や、〝焰ビト〟の構想、宗教を絡めた国と陰謀の物語という発想も、すでにありました。そうした世界観に対して、こちらからの質問や軽いリクエストのようなものを先生へぶつけて、さらに漫画に落とし込むための細かい話し合いをさせていただいたのが、初期段階の作業になったと思います。

といっても、僕が何を尋ねても先生はすぐに答えてくださるんです。ほとんどすべて、大久保先生の中にあったものを確認させていただくような時間でした。

──そのやり取りのなかで、印象に残った出来事はありますか。
先生のある言葉を聞いた時に、僕のなかにも特にぶわっとイメージが広がる感覚があったんです。「消防士が人体発火で燃えてしまった人を殺さないといけない話なのですが、彼らはもともと火事の被害者である人間です。だから、彼らの魂を慰めるために、この世界の消防隊にはシスターが帯同します」と伺った時のことです。

「きっと読者にとっても魅力的な世界になるに違いない!」と思ったと同時に、大久保先生のファンタジー世界構築に対するイメージの豊かさ、ディティールの細かさに、感動した記憶があります。

――世界観のイメージがすごく伝わってきますね。
そうなんです。世界観の設定ももちろんですが、一方でデザインにもこだわってくださる方なので、ずんぐりした消防服のイメージや、悪魔をモチーフにしたシンラの外見などを共有いただきながら、メインビジュアル設定のお話も丁寧にしていただきました。

そうした打ち合わせをさせていただきつつ、大久保先生が大事にされる「少年誌読者の目線」を意識しながら、『炎炎ノ消防隊』の世界観や第1話のストーリーを構想していきました。「暗い世界観なのでコメディも入れる」「読者が共感できるようにシンラのモチベーションは『家族のため』という身近な男の子に」などの要素をネームに落とし込んでいったんです。

先生にとっては新天地である『週刊少年マガジン』の読者傾向も質問してくださったのを覚えています。確固たる作品の構想と、柔軟な表現力を併せ持つ、すごい作家さんだと思いましたね。僕からは、大久保先生の描く女の子はとてもかわいいので、「サービスシーンも見たい!」といった公私混同なリクエストをしたような記憶があります(笑)。

「謎解き」や「サスペンス」も描きたかった

──今、お話が出たように『週刊少年マガジン』という新たなフィールドでの挑戦になりました。土屋さんが考える、少年マガジンならではの「らしさ」など欠かせない要素はあるのでしょうか。
「こうでなければマガジンではない」といった条件のようなこだわりは特にありません。漫画として面白いことが大切で、面白ければ何でもあり。『週刊少年マガジン』の読者にも、今はそうでない人にも広く読んでほしい!という考えです。

ただ、欠かせない要素があるとするならば、素敵なキャラクターがたくさん出てきたとしても、根っこは「主人公の物語」であり続けることでしょうか。主人公が目標に向けて頑張り、壁にぶつかり、苦悩するけれど決して諦めない。それを繰り返していく物語の構造は、少年漫画の成功法則の一つだと思います。

──まさに、シンラの姿は重なります!
シンラはめちゃくちゃ頑張っていてエラいです!ヨッ!主人公!!

また、大久保先生からは、これまでの作品であまり盛り込んでこなかった要素として、『炎炎ノ消防隊』では「謎解き」や「サスペンス要素」を描きたいというお考えを伺いました。『週刊少年マガジン』というフィールドでもそうした読み味の作品は根強い人気があることもあり、二つ返事で賛成しましたね。

結果的に読者からの支持を得ていますし、人体発火についての考察と謎に迫っていくシーンとして、作品全体にちりばめられたポイントになっています。

いま、一番かっこいい絵を描く少年漫画家だと思う

──連載が進んでいくなかで、原作の編集担当として、打ち合わせで心がけていることは?
大久保先生の作品は、世界観もキャラの心情もとてもしっかり作られているので、あとはどのようにすれば読者にわかりやすく、喜んでもらえる形で届けられるか、という点を重視して話し合っています。

例えば、人気のあった回やキャラクターを伝えるなどして、「読者の見たいもの」を読者目線で検討して、キャラクターの出番をリクエストしたりすることもあります。アーサーがおバカを発揮する回は読者からの反応が良く、彼のバカっぷりに拍車がかかっているような気がするのは、そのせいかもしれません(笑)。いや、アイツのバカが止まるところを知らないのは元々かもですが(笑)。

ストーリーの進行や謎についても読者感覚は大切にします。「現状の読者はここまでは理解しているはず」と考えて次の謎を露わにしたり、「そろそろ理解するのが大変になってきたかも」というタイミングでこれまでの情報のまとめを出したり。「まずはわかりやすくすること。そのうえで読者は面白がってくれるんだ」ということは、大久保先生も常に意識されているところだと思います。そのお考えに、僕としても読者目線で寄り添えるように自分なりに努めています。

──編集を担当されてきて感じる、大久保先生の作品の魅力は何だと考えますか。
まずは、ページを開いた瞬間に、一発で目に飛び込んでくる「絵の魅力」が素晴らしいです。画力、絵柄、デザインセンス、コマ割りなどを全て合わせた「絵力」がとてつもない。お世辞抜きで、いま一番かっこいい絵を描く少年漫画家は、大久保先生だと思っています。

さらに、どこかぶっ飛んでいるのに愛くるしいキャラクターの描写。女性キャラの可愛らしさも素敵です。大久保先生の作品には「かっこいい大人」が多いなとも感じます。また、ちょっとシュールなギャグパートの描き方も、大久保作品ならではの味わいどころですよね。それに、敵と味方が順番に殴り合うだけではない動きのある映像的なバトル描写に、ファンタジー世界に説得力や現実味を持たせる異世界描写も特筆ものです。

最後に、締め切り厳守・優良進行なところも、担当編集としては素晴らしい魅力です!先生、いつもありがとうございまっす!!編集長も褒めてました!!

細かに描き込まれた「演出効果」をぜひ見てもらいたい

──アニメ化が進む際に、制作陣に要望などは出されましたか?
いえ、素晴らしいクオリティで作ってくださるので、基本的にはお任せする形です。あるとするなら制作初期の段階に、全体のバランスを鑑みたうえで「アクションシーンとバトルシーンをかっこよく描いていただけると嬉しいな」いうことと、「コメディなどのキャラパートを端折らずにこってり描いていただきたい!」とはお話したと思います。

実際に出来上がったものを見たら、もう「かっこいいいい!!!!!!!!」の一言に尽きました。ここは、ぜひ感嘆符多めでお願いします(笑)。

──壱ノ章は多くの人気を得ましたね。手応えを感じた瞬間や話数、シーンなどはありますか。
本編はもちろんですが、最初の手応えとなると、オープニング映像が本当にかっこよかったです。Mrs. GREEN APPLEさんの『インフェルノ』がかかった完成版の映像を見たときに、「これはイケるぞ」と興奮してしまいました。実際に放映時もオープニングが流れた瞬間、視聴者のみなさんの反応がすごくよかったので、嬉しかったです。

それから、紅丸の鎮魂シーンや、〝地下〟での火縄とアローのバトル、第21話のシンラとショウの対峙時の戦いなど、バトルシーンのかっこよさにもグッときました。キャラの掛け合いもとても楽しく、任務の合間に挟まれる第8特殊消防隊の面々のわちゃわちゃとしたコメディパートも素晴らしいと思いました。制作陣の皆さまに、リクエストをはるかに超えたものを打ち返していただいて、本当に感激です。

──ちなみに、壱ノ章で現状あまり注目はされていないけれども、気に入っているシーンや見直してほしい仕掛けはあるでしょうか。
細かなディテールまで描きこんでくださっているので、演出効果をぜひ見ていただけたら嬉しいです。たとえば、発火能力者が能力を発動したときだけ瞳が光るんです。これはお気づきの方も多いかと思いますが。

あとは、特に浅草や“地下(ネザー)”でのバトルシーンによく表れているのですが、瞳や炎、消防服の青線などの「光る物」をうまく用いて、暗い場所での戦いをかっこよく色気のある描写で魅せてくれていると感じます。その演出も見どころだと思います!

それと、アニメでは原作以上に119(ワンワンニャイン)が隙あらば出てきていますので、作品のマスコットとしてぜひ探してみていただきたいです(笑)。

──最後に、『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』の見どころを、ご自身のお仕事の観点から、これから視聴するみなさんにお教えください!
原作の魅力を引き出していただきつつ、動き、音楽、色使いなど、アニメならではの部分もすごく作りこんでくださっていて、素晴らしいものが出来上がっています。原作からアニメを見ても、アニメから原作を読んでも、全ての人にいい意味でギャップがなく、かつ作品の魅力は増すはず。『炎炎ノ消防隊』という一つの世界を、よりたくさんのチャンネルからみんなで楽しめるアニメになっているかと思います!

『弐ノ章』は特に、人体発火現象や伝導者についての謎がどんどん明らかになる、先が気になるストーリーが続きます。キャラクターの数も増え、縦横無尽の活躍をすることも魅力。脚本、デザイン、設定など、大久保先生の監修もばっちり入れていただきながら、関係者全員が全力で作っていますので、ぜひ見ていただけたら嬉しいです!

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