炎炎ノ消防隊 ENN ENN NO SHOUBOUTAI 弐ノ章

SPECIAL

第1弾 立石謙介 プロデューサー

TVアニメ『炎炎ノ消防隊』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第1回は原作の発売元である講談社ライツ事業部の立石さん。

目指したのは「エッジの立ったフィルム」

──『炎炎ノ消防隊』のアニメ化は、原作のどの段階から動かれていたのでしょうか。
『週刊少年マガジン』に第1話が掲載された時ですね。大久保先生の連載がスタートする予定と編集部から聞いた時から、アニメ化は狙っていました。それだけ魅力的な作家さんなので。とはいえ、やっぱり内容次第というところもあって、連載始まってから判断しようと思っていましたが、第1話を読んで安心しテンションあがりましたね。これならいけるということで、製作委員会の立ち上げに動き出しました。まずはある程度ビジネス関係をまとめつつ、今メールを見返してみたら制作会社探しに入ったのは2016年頭でした。1話の放送まで4年くらい作業してますね。長かった(笑)。

──アニメ化に際して、コンセプトなどは定められましたか。
一言で表すなら「エッジの立ったフィルム作り」。大久保先生にもお話した上で、週刊少年マガジンらしさを保ったうえで、ある程度尖ったアニメ作品にしたいと考えていました。それがよく表現されているのは色使いと作画ですね。ストーリーやキャラクターで魅せる大前提に加えて、『炎炎ノ消防隊』はアクションシーンを見せ場にしたかった。とはいえ、いくら私が望んだところで、作業は制作会社さんのお力なしには何もできないので、アニメーション制作を担ってくださったdavid productionさんには感謝しかありません。

──出版社のライツ事業担当者であり、プロデューサーという立ち位置を踏まえ、立石さんがアニメ化に際して行う業務内容と「大切にしていること」を教えてください。
業務内容は長くなるので、出版者のライツ担当の仕事内容を知るには、『週刊少年マガジン』で瀬尾公治先生が連載中の『ヒットマン』を読んでいただくのが、一番わかりやすいです!私、実名で出ていますので(笑)実はこの連載にあたって特に取材とか受けたわけではないのですが、瀬尾先生とは何回かお仕事させていただいていて、その時の記憶で書かれていると思うんですよね。よく覚えてるなーと感心しつつ、フィクションとノンフィクションの部分がうまく融合されていてさすがとしかいいようのない出来になっています。

※『ヒットマン』
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000313787

あ、話がちょっとそれましたね。「大切にしていること」というのは、「クリエーターファースト」という言葉に集約されるかと思います。原作の先生が納得してくれるものを作りたいと思っていますし、講談社としても大事にしています。かつ制作会社さんにもフルに力を発揮できる環境を作ることですかね。

それと、もちろん製作委員会のビジネスを成功させる、ということも合わせてとても大切なことです。よく「アニメ化は出版社だけが儲かる」とか言われるのですが、そういうことではなくて(笑)、ちゃんと製作委員会全体の利益を求めて様々な調整作業をおこなっています。原作物の場合は、初めからある程度知名度があるという状態で始められるので、オリジナル作品とかよりは収益が見えやすいかと思っています。『炎炎ノ消防隊』に関してもビジネスという面でも非常に優秀な作品になりました。今のところ大成功ですね。

どこで止めても作画が徹底されている

──壱ノ章の反響を含め、手応えを感じたポイントは?
オープニングは最たるものです。david productionさんが「バリバリ動かす!」と宣言してくれていたのですが、絵コンテが凄すぎて「これ本当にやるの?」と思わず質問してしまいました(笑)。仕上がったものを見たら、さらに凄いものになっていました。一時停止とかしてみても、どこで止めても作画が徹底されているんです。あの速さで動いている中、その状態にするって、相当こだわった作業ができていなければ不可能なことですからね。

実は楽曲も、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴さんと初回の打ち合わせをした時、彼が『炎炎ノ消防隊』の原作を読み、コンセプトから膨らませた簡単なデモをすでに持ってきてくれていて、それが今の『インフェルノ』だったんです。

初回の打ち合わせってお互いコンセプトを確認したりそういうことをするんですね。なのですが、そういうのナシでいきなりデモができてるって結構異例なことなんですよ。僕が打ち合わせに参加させてもらった作品の中では過去に2回ですかね、そういうことがあったのは。『進撃の巨人』のLinked Horizonさんの『紅蓮の弓矢』と、『夜桜四重奏』でのUNISON SQUARE GARDENさんの『kid,I like quartet』です。

デモを聞かせてもらったときは「あぁ、ここにも天才がいたんだなぁ」って勝手に思っていました(笑)。それくらいデモの段階から素晴らしいものでした。

僕らが作品の説明をするまでもなくクリエイターが解釈してくれていて、音楽を出してくれたときは、たいてい素晴らしいものになっているんです。そういった意味でも、『炎炎ノ消防隊』のオープニングは最高の形といえるのではないでしょうか。

──本編では劇伴含めた「音」にも強いこだわりを感じました。
劇伴を末廣健一郎さんに依頼したのですが、末廣さんとは、『炎炎ノ消防隊』をアニメ化するならぜひご一緒したいと思っていたんです。通常は監督やレコード会社の推薦を受けて制作会社が決めることが多いのですが、末廣さんの起用に関しては、僕からdavid productionさんにお願いをしました。

僕としてもそこまで出しゃばった事をするのは初めての経験でどうかとも思ったのですが、末廣さんと作品が絶対合うんじゃないかと妄信していました(笑)。結果、非常に素晴らしい劇伴があがってきました。加えて、音響監督、効果さん等をはじめとする優秀なスタッフが揃い、あの独特な「音」が生まれたのは、とてもよかったと思っています。

──壱ノ章で、立石さんがお気に入りのシーンは?
これは僕が答えるよりぜひアニメーションプロデューサーの松永康佑さんに聞いてみてください!拘りポイントたくさんあると思いますので。しいてあげると、オープニングに限らず、本編の作画も気付かないほどのレベルで随所にこだわっていて。たとえば、第5特殊消防隊の火華大隊長が「炎の桜」を出すシーンでは、桜吹雪の花びら一枚ずつにも炎が描かれているんです。桜なので全体はピンクなのですが、そこに赤みがうっすらと映されているのは、花びらの中に描かれた炎の色。いやいや、これ気づかないだろ、とか思うんですけど、そういった完成度が「画面の情報量」を上げてくれているし、見ごたえのあるものつながっていますね。

──感覚的に「かっこいい!」と感じる部分ほど、画面の情報量が関わっていそうです。
個人的には、第4話で焰ビト化した元消防士のミヤモトに、茉希が「プスプスコメット!」と炎を打ち込むも弾かれる数秒のシーンは、一連の動きをコマ送りで見てもらいたいくらいに素晴らしい。ぱっと見ると自然に動いてるように見えるシーンの一つずつに、david productionさんの描き込みが感じられ、他のアニメにもなかなか無い作品の良さだと思います。

「見られる機会」を多く作ることが大切

──手がけてきたお仕事の経験が生かされていると感じることはありましたか?
『進撃の巨人』の経験は端々に生きています。『進撃の巨人』はSeason3から放送局がNHKさんに変更になったのですが、とにかく多くの方に見ていただきたかったので、NHKさんにお願いしにいきました。視聴世帯数が増えたことに連動して、結果、配信サービスでも顕著に再生回数が増えていたんです。TVで視聴可能な地域が増えた分、配信サービスの再生回数が下がる、と思われそうですが、実際は真逆でした。やっぱり露出していくことは大切だな、と痛感させられました。

『炎炎ノ消防隊』も地上波、ネット配信に加えて、GYAO!やTVerで振り返りの無料配信も続けてきました。すると、有料配信サービスでの再生数も連動して伸びていったのがわかりました。つまり、見られる「入り口」としての範囲を広げるほどに、有料の配信サービスでも視聴される回数は増えることが実証されたと思っています。

──最近では海外の配信サービスも充実してきました。
そうですね。『炎炎ノ消防隊』でも海外は最初から意識してきました。例えば、通常、日本のアニメはメインビジュアルを「縦の構図」で用意することが多いのですが、それはポスターでの利用を想定しているからです。ただ、海外では「横の構図」が一般的なため、『炎炎ノ消防隊』は縦横どちらにも対応できるビジュアルに仕上げてもらっています。

また、納品を早めることで、アメリカでも吹き替え版が日本と同時放送で実現しています。アニメ専門チャンネルの「カートゥーン ネットワーク」内の「TOONAMI(トゥナミ)」という放送枠で放送され、視聴者層を一気に広げることができました。

アメリカのアニメコンベンションである「Anime Expo」で先行上映をしたのも、その一環です。「Anime Expo」の会場って広いんですよね。なかなか遠くから見ると字幕を追うのは難しい。けど、吹き替え版が出来ていたので、上映もプロモーションもスムーズにできた。そこまでの準備ができているのは、当時の日本アニメでは珍しいケースだったと思います。david productionさんの制作進行を含めた優秀さがあってこそですね。

これまで海外では、『進撃の巨人』もそうですが、自然発生的に人気が出ることはありました。それを制作段階から海外展開を本格的に意識したのは、僕にとっても『炎炎ノ消防隊』が初めてです。特に海外では、作品人気が右肩上がりで最終話まできたと聞いています。この辺もあらかじめ準備してきた成果かと思っています。ビジネス戦略を考えるプロデューサーとしても、いよいよ意識しなければいけなくなってきたと感じています。

放送前の評判で続編が決まる

──今年から弐ノ章が放送される予定ですが、この予定は最初から決まっていたのですか?
最初から、というと厳密には違いますね。ただ壱ノ章放送前には決まっていました。というのも、先程もお話したように、『炎炎ノ消防隊』は海外展開を意識していたので、かなり早いスケジュールで進行していました。放送前に様々なセールスを関係者にしていくのですが、その時にすでにお見せできる素材が結構揃っていたんですね。それが非常に評判がよくて。ですので、制作最中にこれは続編ができるな、ということになりました。

製作委員会にもBiliBIliさんやFunimationさんが入ってワールドワイドな製作委員会になっています。みなさん長くやって欲しいというリクエストもありましたし、ビジネス的にも算段がたったのでdavid productionさんには大変ですけど、続けて作っていただくことにしました。なのでかなり早い段階から準備できたので、弐ノ章を今年の夏放送予定にまで持ってくることができました。非常に恵まれた作品かと思います。

「壱ノ章をどのように超えるのか」を楽しみに

──ということで、無事この度『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』の放送が決定しました。壱ノ章からの変更点など、見どころをお聞かせください。
ビジネス面での変更点は放送地域、時間が一部変更になってしまうことですね。これも弐ノ章を決めた時点で決まっていたことなので仕方ないのですが、壱ノ章同様に配信サービス等で見られる環境作りは極力おこなっていくつもりです。たまたま見逃してしまってもすぐTV放送に返ってこられるように準備していくつもりですので、ぜひ最後まで見続けていただければと思っています。

制作面での大きな変更点は監督が代わることでしょうね。やっぱり監督がかわるとフィルムの出す色が変わってくると思います。ただ今回から引き受けてくださる南川さんも非常に優秀な方ですし、何も心配はしていません。南川監督、david productionの松永さんをとても信頼してお任せしていますし、僕はただ信じて、祈って見ているだけですかね(笑)。その中でdavid productionさんがどのようなものを作ってくれるのか、恐らく壱ノ章よりも「何か超えた部分」を作ってくると思うので、それは何なのか、僕も楽しみにしていますし、皆さまもぜひ楽しみにしていてください!

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