炎炎ノ消防隊 ENN ENN NO SHOUBOUTAI 弐ノ章

SPECIAL

第8弾 廣瀬清志 編集

TVアニメ『炎炎ノ消防隊』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第8回は映像のテンポを操りリズム感を生み出す廣瀬さん。

作品のリズム感を生み出す「編集」という仕事

――編集というお仕事は、具体的にどのような作業をされているのか知らない方も多いように思います。まずはどのような形で作品に関わっていくのか伺えますか。
端的に言うと、「カッティング」と「差し替え」と「原版」ですね。カッティングを大まかに表すなら、1枚ずつバラバラに描かれたカットを決められた尺の中におさまるように、切ったり伸ばしたりしながらつなげていく作業です。ここでは監督と演出が立ち会って、一緒に相談しながら決めていきます。そこでできたムービーを見ながらアフレコが行われることもあります。

――カットをつなげていくお仕事は編集の仕事なんですね。差し替えとはなんですか?
基本的にカッティングの時点で絵が完成していることはないので、音響さんが音をつけるタイミングで完成した絵に「差し替え」をします。そして、すべての作業が終わったら、テープに落としてオンライン編集に渡し、テレビで放送できるようにCMの入るタイミングなど細かい調整をしてもらいます。そこでやっとマスターテープが完成という形ですね。このマスターテープのことを「原版」ともいいます。

「アクション」と「日常」の差が大きくなるように

――今のお話を聞いていると、編集は作品のテンポやリズム感を作り出す上で大きな役割を担っているように感じました。
そうですね。まずは監督や演出の意向をしっかりと掴み、それを表現できるように編集を考えていきます。

――本作は、迫力のあるアクションシーンと穏やかな日常シーンが見事に合わさって、絶妙なテンポで進んでいく点が印象的でした。編集の観点から具体的にどのようなことを意識していましたか。
第壱話を編集する時点で、監督が思い描いているリズム感はどのようなものだろう、と考えました。最初、カット単位の撮影データを見たときに、日常とアクションの差が大きくなるようなリズム感を生み出したいんだな、というのを感じました。すごく感覚的な話になってしまうので、説明が難しいんですけど、全体的に「スーーーーーートトン」っていう感じかな、と。余計にわかりにくいですかね……。

――それはつまり、「スーーーーーー」と日常シーンが流れていく中で、唐突に「トトン」とアクションシーンが入ってくる感じ、ということでしょうか。
そういうことですね。ただ、最初のラッシュのチェックはあくまで第一印象で、その後の細かいカットの調整をしていく中で、監督や演出の「好きな間」がわかってくることも多いんです。なので、編集時には「どのカットに尺を足したいんだろう」とか「どのカットが長いと感じているのだろう」という点を、監督と話しながら探るようにしています。

「違和感のある繋ぎ方」が個性を生み出すこともある

――編集作業を進めていく中で、監督の意向は早い段階でつかめていましたか。
うーん、どうでしょう。何度も相談を重ねていく中での作業なので、ある程度つかめていたとは思いますが、それでも監督がたまに追加してくる「変わった間」をどうつなぐべきなのかは毎回けっこう悩んでいましたね(笑)。

――「変わった間」とは、どういうものでしょうか。
一般的には前後の流れを汲んでカットをつないでいきますが、『壱ノ章』はその前後のカットとは直接的に関係がない絵がぽんと入ってきたりするんです。

――たしかに、特にアクションシーンなどでは場面や絵の展開が目まぐるしく変わっていく印象でした。
そういったカットをつなげていく場合、観ている側が違和感や引っかかりのないようにつなげることが本来は正解のはずです。でも、そういった違和感のあるカットが入ってくることによって、その作品が独特の個性を持つのかもしれない。

そう考えると、ただなめらかにつなぐのではなくて、この作品の世界観にぴったりと合うようなリズム感を自分の中でも探していかないといけないな、と。自分の中で納得のいくリズムを探す作業は、大変ではありますが新鮮で面白かったです。

――独特のテンポ感はそういったところにも現れているのかもしれないですね。
そうですね。あとは、今回は特別に「声が入ったあとにもう一度編集をしたい」と提案させていただきました。通常だと編集作業は音のない状態で一発で決めることが多いのですが、今回はそういった独特なリズム感を生み出すためにも、もっと細かい調整をしていきたいと思っていたので。おかげで、さらに細かなカット尺の調整もできたと思います。

視聴者が落ち着いて次のシーンに移れる工夫

――本作には「変わった間」など独特な演出があることにより、他の作品とは一風変わったテンポ感を生み出していたと思います。他に演出的な意図のある編集はありましたか。
作品のテンポとしては、シーンとシーンのつながりの間に尺をしっかりと取っていくようにしていました。

――シーンとシーンの間、ですか。
たとえば、多くの作品は場面が転換するBG(※Background、美術背景)のみのカットは2〜3秒の尺が一般的です。ただ、本作だとそこで4秒、もしくは5秒とっているカットがたくさんあると思います。ここをゆったりと取ることによって、観ている人たちは落ち着いて次のシーンに入っていけるように工夫しているんです。

――たしかに言われてみると、美しい美術背景がしっかりと映し出されている印象がありました。アクションシーンの多い作品ですが、そういった演出によって見せ場の尺が足りなくなってしまう、といったことはありませんでしたか。
そこは監督や演出と相談しながら、全体を見て調整していくので特に問題はありませんでした。編集とは、すでにある素材をどう見せていくかを考える仕事です。カットがあることで勢いが出なくなることもあれば、逆にカットを増やした方が勢いが出ることもある。そこは監督や演出と都度話して、カットをなくしたり、もう一度使用したりなど調整を重ねていきました。

自分の引き出しから答えは出さない

――『壱ノ章』が完成したことによって、独特のテンポやカットも含めて世界観がひとつ確立されたと思います。編集の立場としても、ご自身の中に確固たるフォーマットなどはできましたか。
いえ、できませんね。確固たるフォーマットも、答えも、何も出ないままです。

今まで様々なアニメ作品に携わらせていただきましたが、いつも試行錯誤しながら「前よりも少し良くなったかな」と感じられるものを蓄えているイメージです。個人的にもフォーマットに頼って新しいことをしないのはつまらないと感じるので、なるべく自分の引き出しから正解をもってくるような作業はしないようにしています。

――では、『弐ノ章』でも新たな演出やそれに伴う挑戦が拝見できますね。編集のお仕事を知った上で見るとさらに面白く感じることができそうです。ちなみに『壱ノ章』では大きな反響があったと思いますが、編集の立場で手応えを感じたことはありましたか?
とっても個人的な話で恐縮なのですが、自分の子どもがアニメを観てこの作品を好きになってくれました!

――それは嬉しいですね。
やっぱり自分の身近にいる好きな人からの声は心に響きますね。もちろん細かい仕事を知ってもらえることも嬉しいので、来たる『弐ノ章』では新たな視点で観てくださる人が増えたらありがたいです。次のシーズンでは、新たな仲間や敵の登場、そして少しずつわかってくる真実など物語のスケールもさらに大きくなっていくので、僕自身も一視聴者として今からワクワクしています。

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